東京五輪女王 ベンチッチ、母としての挑戦とLAへの決意

スイス出身のベリンダ・ベンチッチ(WTAランキング自己最高4位)が、新たなステージで戦っている。2024年4月24日に娘ベラを出産し、母親として初のフルシーズンを迎えた今、彼女は再びトップレベルの舞台に戻りつつある。


ベンチッチは今季を「良いシーズン」と総括する。テニスの感覚がここまで早く戻るとは思っていなかったという。当初はウィンブルドン前後でトップ100復帰を目標にしていたが、復帰のスピードは想定を大きく上回った。アジアスイングではトップ選手との対戦も重ね、敗戦の中にも手応えを感じた。自分のテニスが確実に通用している実感があり、改善点と次のステップが明確になったと語る。


母としてツアーを転戦する生活は、これまでとはまったく違うものになった。家族での移動は常に挑戦を伴うが、夫でありフィットネストレーナーのマーティン・フロムコビッチが全面的に支えている。娘ベラと常に一緒に過ごし、ベンチッチが練習や試合に集中できる環境を作り出している。この支えがなければ、赤ん坊とのツアー生活は成立しないと実感している。


試合中のメンタルにも変化がある。コートに立てば自動的に「一点集中」状態に入るため、母親であることを意識から切り離すことができるという。かつては試合前に神経質になり、テニスのことを考えすぎていたが、今は試合前に他のことを考える時間があり、余計な緊張が減った。それがより安定したプレーにつながっている。


東京はベンチッチにとって特別な地だ。2020年東京オリンピック(2021年開催)で女子シングルス金メダル、女子ダブルス銀メダルを獲得し、キャリアの頂点を築いた。昨年のパリ大会は欠場したが、次のロサンゼルス五輪への出場を「大きな目標」として掲げる。パリ大会を見ながら、「次はLAで戻る」と心に誓った。


ジュニア時代には、全仏オープンとウィンブルドンを制して「チャンネルスラム」を達成した最後のジュニア選手でもある。20世紀で唯一この偉業を成し遂げた存在だ。全仏ではテイラー・タウンゼントとの激戦を制し、ウィンブルドンでは芝の感覚を楽しみながら自信を深めた。クレーから芝への移行も自然で、芝を好む自身にとって最も快適な舞台だった。


現在、彼女は東京・有明コロシアムで開催されている東レ・パン・パシフィック・オープンテニス2025に出場中。10月23日のシングルス2回戦ではバルバラ・グラチェワ(フランス)を6-4、6-3で下し、ベスト8へ進出した。ベンチッチは2015年大会で準優勝を飾っており、10年ぶりのタイトルを狙っている。