2025年11月24日、東京・有明コロシアムで行われたデフリンピック女子ダブルス決勝は、日本選手同士が金メダルを争う手に汗握る試合になった。デフテニス界の「女王」菰方里菜(島津製作所)と鈴木梨子(NTT都市開発)のペアが、杉本千明・宮川百合亜組を接戦の末に下し、金メダルを手にした。世界ランキング1位として臨んだ菰方にとって、デフリンピックはまだ手にしていない最後のタイトルで、地元開催の重圧もある中でつかんだ勝利だった。
試合後の記者会見では、2人が語った「メダルの重み」が印象的だった。鈴木は、当初はオリンピックの金メダルと同じくらいの感覚だと思っていたものの、大会の盛り上がりや選手のレベルの高さに触れ、「今までにない重さを感じた」と話した。デフリンピック初出場の菰方も、メダルをかけられた瞬間に想像以上の重みを感じたと言い、長年の思いが形になったことをかみしめていた。
デフテニスでは補聴器を外してプレーするため、ダブルスの連携がとても難しい。鈴木は、今回はコート外での会話を特に大事にし、そこを丁寧に積み重ねたことで試合中の自然な連携につながったと語った。これまで「聞こえる選手と関係なく出場した大会での経験」が生きたという。一方、コート上での具体的なやり取りについて菰方は、口話で伝える決まったフレーズが多く、サーブやリターンのコース、気持ちの切り替えなどを短く伝えていたと説明した。
銀メダルの杉本・宮川組も、日本選手同士の決勝という状況について冷静に振り返った。宮川は、普段の合宿で練習している相手だからこそ、お互いの情報が読まれやすいとしつつ、今日の試合はペアとしてとても良いプレーができたと語った。杉本も悔しさをにじませながら、ペアの雰囲気や連携に手応えを感じており、今回の課題と収穫を次につなげたいと前を向いていた。宮川は「どの大会でも準優勝までなので、次こそ優勝したい」と目標を口にし、日本人同士の対戦となる場面でリベンジを狙う姿勢を示した。
日本開催となった今回のデフリンピックについて、選手たちはデフスポーツを知ってもらう機会になったことを喜んだ。鈴木は、多くの観客が足を運んでくれたこと、自分のテニスを直接見てもらえたことが嬉しかったと話し、「デフテニスを知ってもらうきっかけになった」と語った。菰方も、テニス界にはまだデフテニスの存在が知られていない現実があるとし、東京開催によってメディアの露出が増え、子どもたちがスポーツを始めるきっかけになってほしいと期待を込めた。
日本の女子デフテニスが強い理由について、鈴木、菰方の2人は、聞こえる選手と同じ環境でテニスができる点を挙げた。特に大学でハイレベルな部活動に取り組んできた経験が、強さの土台になっているという。
全体を通して、日本勢が積み重ねてきた環境と経験が、そのまま世界の舞台での結果につながった決勝だった。
取材:JunkoSato/SportsPressJP
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