チャドが関西万博に参加予定であるにもかかわらず、開幕から10日経った2025年4月22日時点でパビリオンの準備が進んでいない。背景には、国内の不安定な状況が大きく影響している。
チャドは長年紛争状態で、政権も不安定。2021年4月以来、軍事政権が統治しており、2024年5月の大統領選挙ではマハマト・イドリス・デビが当選したが、野党のボイコットや不正疑惑が浮上した。北部や東部国境では武力衝突やテロのリスクが高く、日本の外務省は全土に最高レベルの危険情報を発出している。さらに、スーダンからの難民が65万人以上流入し、690万人が人道支援を必要とするなど、人道危機が深刻だ。経済的にも人口の44.8%が貧困ライン以下で、万博準備にリソースを割く余裕がない。
この状況は、フランスのアフリカからの撤退とロシアの進出という地政学的動きともリンクする。チャドは長年フランスの緊密なパートナーだったが、2024年11月にフランスとの防衛協定を破棄し、約1000人のフランス軍が撤退した。背景にはロシアへの接近がある。デビ大統領は2024年1月と6月にロシアと会談し、関係強化を進めている。フランス軍撤退は、マリ、ブルキナファソ、ニジェールに続く動きで、これらの国々もロシアに接近している。米軍も2025年4月にチャドから約60人を撤収させ、サヘル地域での欧米の影響力低下が顕著だ。
ロシアはサハラ砂漠横断回廊を構築し、アフリカでの軍事拠点を拡大しようとしている。スーダンやリビアに拠点を置き、資源調達や軍事支援を通じて影響力を広げている。しかし、ワグネル(現アフリカ軍団)による人権侵害が反発を招き、IS-Kなど過激派がロシアを標的にする動きも出ている。 チャドの問題は、世界紛争の縮図だ。欧米の撤退とロシアの進出、過激派の台頭が絡み合い、地域の不安定さを増幅させている。万博という国際舞台での準備不足は、こうした地政学的緊張の影を映し出している。チャドがこの状況を乗り越え、パビリオンを完成させられるかは未知数だが、世界の紛争の影響が万博にも及んでいる。
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