遅いと怒られるし、柔いと怒られる

トヨタとスバルが挑むニュルブルクリンクの意義


東京オートサロンのトークショーで、トヨタとスバルが挑むニュルブルクリンクの意義とその背景について語られた。このドイツに位置するサーキットは全長20.832kmに及び、富士スピードウェイの約4.5kmと比べてもはるかに長い。さらに高低差が300mもある過酷なコースレイアウトが特徴であり、ドライバーや車両にとって負荷の大きい厳しいコースだ。


トヨタがニュルブルクリンクに挑戦し始めたのは2007年になる。当時、モリゾウ氏(豊田章男氏)がレースに出たいという意向を持っていたが、必要なライセンスを取得するところから始める必要があった。トムスの舘信秀氏はこのプロセスについて、「モリゾウさんがレースに出たいという意向を持っていたが、ライセンスの取得が必要だった。推薦でライセンス取ることをも出来たが、しっかりと練習を積んでステップを踏んで臨むことが重要と考えた」と振り返る。その言葉通り、ドライバーの安全確保と基礎力向上を重視したトレーニングが行われた。


トヨタが初めてニュルブルクリンクに参戦した際、まだトヨタの名前を表に出すことすら難しい状況だった。しかし、トヨタのマスタードライバーである成瀬が中心となり、車両の開発やドライバーの育成に力を注いだ。「いい車を作るんだ」という熱い思いを抱えた成瀬は、車両の性能に対して非常に厳しい姿勢を貫いた。「遅いと怒られるし、柔いと怒られる。でもその厳しさが、私たちの成長につながった」と舘は語る。成瀬の目は市販車にも向けられ、厳しい批評が繰り返されたが、そのすべてが「本当にいい車を作りたい」という思いに裏打ちされていた。


一方で、スバルは2008年にWRCから撤退した後、ニュルブルクリンクへの挑戦を本格化させた。スバルの辰己英治氏は「ニュルブルクリンクが車両開発やドライバーの育成に非常に適した場所だと考えた。特にスバルは4WDにこだわっており、ニュルブルクリンクでの挑戦を通じて4WDの性能をさらに高めることができた」と話す。この経験は市販車の開発にも活かされ、スバルは毎年ディーラーから選抜されたメカニックをニュルブルクリンクのレースに参加させている。「これによりメカニックのモチベーションが高まり、スバルの技術力向上にもつながっている」と辰巳は強調する。


ニュルブルクリンクでの挑戦は、単なるレース活動にとどまらず、トヨタやスバルにとって車両開発や人材育成の重要な場となっている。特にトヨタは、ニュルブルクリンクでの挑戦を通じて多くのドライバーやエンジニアを育ててきた。「成瀬さんの厳しい指導が、ドライバーやエンジニアの成長につながった」と豊岡は語り、その指導がトヨタの競争力向上に大きく寄与していることを明かす。


また、ニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦は、参加者一人ひとりの意識を高める。「チームとして1秒でも長く、1mでも多く走ることを目指し、安全第一でいい車作りに貢献したい」と意気込むのは、今年初めて挑戦するトヨタの豊田大輔だ。このような姿勢がトヨタの成長の原動力となっている。


ニュルブルクリンクは、車両の性能を極限まで引き出す場であると同時に、人材育成の場としても自動車メーカーに重要な役割を果たしている。トヨタとスバルがこのサーキットでの挑戦を通じて磨き上げた技術や精神力は、市販車の品質向上や次世代の人材育成に直結している。単なるレースを超えた、この挑戦の意義は計り知れない。