「世界は遠かった。一つのミスが勝敗を分けた」

東京2025デフリンピックで男女そろって銀メダルをつかんだデフサッカー日本代表。歴史的快挙の裏側には、胸の内を語った選手や監督たちの率直な言葉があった。会見から浮かび上がるのは、誇りと悔しさ、そして未来へつなぐ決意だ。

デフサッカー男子・女子日本代表が、デフリンピック創設100周年の節目となる東京大会で初のダブル銀メダルを獲得した。日本開催の熱気に包まれた会場で、選手と監督は大会を振り返りながら、それぞれの胸にある葛藤と成長を語った。


男子の斎藤登監督は「ご報告できるだけの結果を残せたことが嬉しくて、ほっとしている」と語りつつ、「目標が世界一の金メダルだったので複雑な心境」と率直に明かした。それでも「選手チームが成長してくれたこと、見せてくれたパフォーマンスが素晴らしかった」と選手への誇りを口にした。今後については「普及と育成、デフスポーツに理解を持った指導者の養成が急務」とし、日本のデフサッカーの土台づくりに目を向けた。


女子の山本典城監督も「金メダルを目指していたので悔しさは残っている」と語った。大会中に選手が向き合った重圧について触れ、「最後まで諦めずに出してくれた力を誇りに思っている」と言葉を続けた。会場の一体感に「聞こえる人、聞こえない人、聞こえにくい人が1つになってエールを送ってくれた」と振り返り、「絶対女王アメリカを倒すにはもっと基準を上げないといけない」と先を見据えた。


男子キャプテン松本卓巳選手は、出発前に掲げた“世界一”という言葉を思い返し「皆さんの期待を裏切る形になって申し訳ない」と悔しさをにじませた。「世界は遠い。一つのミスが大きな勝敗を分ける」と決勝を振り返り、「もっと泥臭く勝つための手段に心を鬼にしてこだわっていかないといけない」と次への課題を見つめていた。


副キャプテン古島啓太選手も「毎朝思い浮かぶのは決勝で負けた風景」と語り、「悔しい気持ちをこれからのサッカーの未来につなげたい」と前を向いた。堀井聡太選手は「悔しい気持ちを2年後のワールドカップにぶつける」と語り、若手への継承を誓った。瀧澤諒斗選手は決勝で泣き崩れた瞬間を思い返し「悔しい、本当に悔しい。それを忘れないで2年後絶対世界一を獲る」と言葉を絞り出した。


女子キャプテン伊藤美和選手はアメリカとの差について「日常の基準を上げなきゃいけないと痛感した」と語り、「2年後必ずアメリカに勝って優勝する」と目標を掲げた。大会直前の脳震盪でプレーできなかった悔しさを抱えつつも、「試合に出る選手が100%でプレイできるように支えた」とチームへの献身を語った。髙木桜花選手は「なんとしてでも1点取りたかったが結果につながらず悔しい」と言いながら、「自分たちの攻撃と守備の形が出せた」と手応えを語った。宮田夏実選手も「思うようにプレイできず悔しい」としつつ、「応援の力が自分のパワーになった」と感謝を口にした。


選手たちが繰り返し語ったのは、次世代への思いだ。松本選手は「自分がやりたいスポーツに挑める環境がもっと必要。子供たちがチャレンジしたいと思ってくれれば嬉しい」と語り、伊藤選手も「障害を持った子供たちがサッカーに挑める環境はまだ少ない。少しでも前向きに受け入れてほしい」と現場への理解を求めた。


両キャプテンは、大会で高まった認知度を途切れさせないため、普及活動への意欲も語った。松本選手は「表に出て露出を増やし、チームや選手のファンを増やすことが大事」とし、伊藤選手も「デフサッカーのイベントを続け、聞こえない子供たちの環境を広げていきたい」と話した。


男子はグループAを1位で突破し決勝でトルコに惜敗。女子は予選2位から決勝へ進み、再びアメリカに挑んだが及ばなかった。それでも、史上初のダブル銀メダルは日本デフサッカーの確かな前進となった。熱気の中で語られた言葉は、次へ進むエネルギーそのものだ。