ベリンダ・ベンチッチ「とてもとても幸せだ」

ベンチッチ、東京で“完全復活” 東レPPO初制覇で通算10冠目

2025年10月26日、東京・有明コロシアムで行われた東レ パン・パシフィック・オープン(WTA500)シングルス決勝で、第5シードのベリンダ・ベンチッチ(スイス)が第6シードのリンダ・ノスコバ(チェコ)を6-2、6-3で下し、大会初優勝を果たした。2021年東京五輪金メダリストが再び東京の地で栄冠を手にし、「とてもとても幸せ」と笑顔を見せた。

今大会はベンチッチにとって身体的にも厳しい一週間だったが、最後まで集中力を切らさず頂点に立った。「難しい場面も多かったけれど、最終的に優勝できてスーパーハッピー」と語る。かつて若手時代から何度も出場してきた東京で再びトロフィーを掲げたことを「フルサークルの瞬間」と表現した。

東レPPOは過去にシュテフィ・グラフやマルチナ・ヒンギスといった名選手たちが優勝してきた歴史ある大会。ベンチッチは「その人たちと同じトロフィーを掲げられることは最大の光栄」と話した。試合前のウォームアップ中に過去のチャンピオン映像を目にし、「自分もあの場所に立てたらどれほど素晴らしいかと思っていた。それが現実になってうれしい」と語った。

対戦相手のノスコバは強打が持ち味のビッグパワープレーヤー。ベンチッチは「アグレッシブな試合になることを覚悟していた」と語り、主導権を握るために積極的な攻撃を仕掛けた。「今日はサーブがすごく良かった。それが勝利を支えてくれた」と試合を振り返る。


身体的な疲労が残る中でも、彼女は徹底したリカバリーを行ったという。「昨日の試合後はかなり疲れていたので、ホテルで横になってストレッチをした」。さらに「味噌汁と寿司を食べた。本当に味噌汁は最高。体の回復に絶対必要だと思う」と笑いを交えた。朝には疲労感が残っていたが、「コートに立つとアドレナリンが出て、体が“できる”と教えてくれた」と語り、精神力の強さを見せた。


2024年4月に出産を経て復帰したベンチッチは、わずか10カ月で再びツアー優勝を遂げた。ランキングは一時トップ400まで落ちたが、現在はトップ10復帰が視野に入る。「こんなに早く戻れるとは思っていなかった。努力が報われている」と語る。


復帰直後は「前と同じレベルに戻りたい」という思いだけだったが、オーストラリアでの大会で「もう競技レベルに戻っていると感じた」と手応えを得た。その後アブダビで優勝し、自信を確信へと変えた。「どんな相手にも渡り合える感覚が戻ってきた」と言葉に力を込めた。

出産後の復帰プログラムは慎重に進めた。「最初は本当にカムバックできるかどうかも分からなかった」。それでも一歩ずつ体を慣らし、フィットネストレーナーでもある夫の支えを受けながら調整を続けた。「夫がどんな運動をすべきか、何を避けるべきか一緒に考えてくれた。そのおかげで自然に体が強くなっていった」と感謝を口にした。出産、復帰、そして東京での優勝。すべてがひとつのストーリーとして繋がった。「この地で再び勝てたことは特別。ここからまた前に進みたい」。


有明の夜、ベンチッチはトロフィーを掲げ、再び世界の頂点を目指す新たな一歩を踏み出した。


Photo:JunkoSato/SportsPressJP