「ウクライナは負けないということを示せた」

新体操のイオンカップ世界クラブ選手権は10月13日、東京体育館で最終日を迎え、決勝後半2種目が行われた。大会を制したのはウクライナのタイシア・オノフリチュク(17歳、デルギナ・スクール)だった。オノフリチュクは個人総合で全種目トップの合計120.300点を記録し、優勝を飾った。さらにクラブ対抗でもチームを優勝に導き、個人総合と合わせて2冠を達成した。

表彰台の中央に掲げられたウクライナ国旗を見上げ、オノフリチュクは「ウクライナは負けないということを示せた」と語った。デルギナ・ヘッドコーチも「国旗を一番高い場所に掲げることができ、ウクライナの強さを見せられた」と振り返った。戦火が続く祖国の現状を背負いながらの勝利は、単なるスポーツの成果を超えた意味を持つものとなった。

ロシア勢が個人中立選手(AIN)として出場する中、オノフリチュクは表彰式でAIN選手との握手を拒否した。キーウ出身の彼女は、日常的にミサイルやドローンによる攻撃にさらされている状況を語り、「明日も目覚められるかわからない不安を抱えて眠る日々が続いている」と明かした。デルギナ・ヘッドコーチも「毎日ミサイルが飛び、ドローンが数百機飛んでくるような中で私たちは生きている。そんな人たちと握手しなければならないのか」と語気を強めた。練習中も空襲警報が鳴れば地下に避難する必要があるなど、過酷な環境での活動が続いているという。


一方で、デルギナ・コーチは日本の支援にも感謝の意を示した。高崎市や日本体操協会の協力で避難合宿が定期的に行われ、1か月ほど日本で安全に練習できたといい、「高崎の皆さんには本当に感謝している」と述べた。今後も容易ではない環境の中で試合に臨むが、「ウクライナは強いということを示し続けたい」と決意を語った。


日本勢では、世界選手権代表の喜田未来乃(エンジェルRG・カガワ日中)が個人総合で101.700点をマークし9位に入った。鈴木菜巴(アリシエ兵庫)が10位、白川愛侑子(エンジェルRG・カガワ日中)が14位。クラブ対抗ではエンジェルRG・カガワ日中が8位で大会を終えた。

喜田は「多くの観客の前で演技できてうれしかった」と振り返りながらも、「4種目すべてを完璧にまとめる力がまだ足りない」と自己分析した。演技では「序盤は力が入りすぎて硬くなった」としつつも、後半に立て直せたことを収穫とした。自身の弱点について「魅せたいと思った時にやり切れない弱さを感じた」と語り、今後の課題とした。リボンでは「自分の好きな作品を国際舞台でしっかり表現できた」と手応えを得た。


海外選手との共演からも刺激を受けたという。「久しぶりにAINの選手の演技を間近で見て、美しさや線の綺麗さを感じた」と語り、この経験を成長の糧にすると意気込んだ。日本選手たちは全日本選手権に向けて課題を見直し、より完成度の高い演技を目指す構えだ。


ウクライナの若き選手の躍動と日本勢の挑戦が交錯したイオンカップ。戦火と向き合いながらも前を向くオノフリチュクの姿は、競技の枠を超えた強さを示していた。


取材:JunkoSato/SportsPressJP 

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