エディ・ジョーンズHCが語る日本代表の現状と未来への戦略

ラグビー日本代表のエディ・ジョーンズヘッドコーチが詳細なメディアブリーフィングを実施し、チームの現状分析と今後の戦略について包括的な見解を示した。特別な機会としてドレスアップして臨んだジョーンズHCは、最近の富士スピードウェイでのハースF1チーム視察を通じて得た洞察を交えながら、「F1の再建には5年を要するが、日本代表にはその時間的猶予はない。3年で成果を出さなければならない」と強い危機感を表明した。

Photo:JunkoSato/SportsPressJP 


日本代表が取り組むべき4つの改善領域

ジョーンズHCは日本代表の課題を4つの主要領域に整理し、それぞれについて具体的な改善策を提示した。


**選手の感情的スキル育成**が第一の課題となる。特に連戦となる2戦目において、選手が感情的に正しいマインドセットを維持する能力が決定的な重要性を持つ。若い選手にとってビッグゲームでの感情コントロールは容易ではなく、継続的な訓練が不可欠だ。ジョーンズHCは具体例として、ライオンズが最初の2テストに勝利し3戦目が一発勝負となった際、オーストラリアの必死さを理解しながらもライオンズの選手が感情的に試合に挑めなかった事例を挙げた。フィールド外での準備を徹底し、連続するビッグゲームで感情的スキルを実践的に試す機会の創出が急務となっている。


**アタックのバランス調整**では、近年のラグビーにおける空中戦の急激な増加への対応が求められる。1試合で最大30回の空中コンテストが発生する現代ラグビーにおいて、日本は「チョスクラグビー」の体現とキックを織り交ぜた優れたアタッキングゲームの開発を両立させる必要がある。最も効果的なアタックは「0パス」または「3パス」のプレーだとし、ラック周りでタフかつハードにプレーしてクイックボールを獲得した後、素早く大きなスペースにボールを展開する戦術を重視する。これにはスキル、パワー、フェースが必要であり、チャンスの確実な仕留めが重要だ。


ジョーンズHCは「ポジティブポゼッション」と「ネガティブポゼッション」の明確な区別を強調し、ディフェンスがセットされたネガティブポゼッションでは戦術的キックを選択して新たなコンテストを生み出し、そこからアタック機会を創造する戦略を検討している。リーグワンでのキック頻度の少なさによる練習機会の不足を言い訳とせず、独自のプレースタイル構築に取り組む姿勢を示した。


**ディフェンスの安定化**については、新しいディフェンスコーチのショーン・ホイットル氏の下でシステムを再構築し、「容赦ない、徹底的にディフェンスしまくるスタイル」の確立を目指す。ディフェンスの要諦はポジショニングの確実な確保とラインからの前進によるタックル実行にあり、ボール奪回のためのジャッカルスキル育成が不可欠だ。可能な限りボールに対してインサイドプレッシャーをかけ、相手に早いパスを強要する戦術をウェールズシリーズで試行し始めており、今後も継続的にアップデートを図る方針だ。


**リーダーシップの強化**では、マイケル・リーチの終盤選手としての特性を踏まえ、彼のリーダーシップが失われた際のギャップを埋める選手の発掘と育成が急務となる。ジョーンズHCは優秀なキャプテンとして、ジョニー・ウィルキンソンの即座の反応力と冷静さ、ジョン・スミットの社会統合能力、マイケル・リーチの勝利へのコミットメント、ウィル・スケルトンのフィジカルリーダーシップを例示した。試合中のブレイク増加により選手のリーダーシップ発揮機会が拡大したことを受け、共同キャプテン制の導入も検討対象としている。


日本ラグビーの10年間の変遷と現在の課題

ブライトンの奇跡から10年を経た日本ラグビーの変化について、ジョーンズHCは慎重な分析を示した。2015年のチームは精神的にも準備面でもアマチュア的であったが素晴らしい成果を達成し、2019年にはよりプロフェッショナルとなり、現在はほぼ完全なプロ化を遂げている。しかし真のプロフェッショナルとは「トレーニングでの報酬ではなく勝利のための報酬を受け取り、やるべきことを自分で実行する」選手だとし、チームとの週10時間に対する残り20時間の個人での分析とスキル育成が日本ラグビーの次なる進化だと位置づけた。

深刻な課題として外国人選手比率の劇的変化を指摘した。10年前はチーム当たり外国人選手4~5人に対し日本人選手10人程度だったが、現在は外国人選手11~12人、日本人選手3~5人と完全に逆転している。この状況が日本人選手の自信喪失を招いている可能性があり、選出されずプレー機会を得られない選手の自信構築は困難だ。日本代表を外国人選手だらけのチームにはしたくないが、ファンは勝利と日本人選手によるリーダーシップを求めており、この精神の育成が不可欠だとした。


若手育成と経験値の蓄積

リーグワンでの限られたプレータイムにより日本代表選手の経験不足が深刻化している現状を受け、ジョーンズHCはトップレベルでの能力構築と成功体験による自信醸成を監督の重要任務と位置づけている。「JTS」(ジャパンタレントスコッド)設立により若手への高レベル経験機会を創出し、大学4年間だけではワールドカップレベルに到達できないため、ワールドクラストレーニング、海外プレー、多様な対戦相手との経験が必要だと強調した。

秋のテストマッチでは各試合での成長と「ジャパンらしい攻めの姿勢」のより長時間維持を目標とし、F1ドライバーの多様なコース適応のように、若いチームの様々な状況への迅速適応経験が必要だとした。11月の南アフリカ戦については、世界最高チームとの対戦で最多の学習機会を得られ、時間もスペースもない物理的圧倒環境でのプレー経験の重要性を説いた。


コーチング手法の進化と2015年勝利の遺産

若手指導において、以前のワンオンワンでの直接的指摘から、映像送付や宿題提供により選手自身の問題認識と解決策導出を促すアプローチに転換している。現代の若い世代の特性を理解し、例えば23歳前後の若者が1分後には携帯電話に注目してしまう現状を踏まえた指導法の変更が必要だと説明した。


2015年の南アフリカ戦勝利は日本ラグビーに革命的変化をもたらした。ラグビーの人気スポーツ化、子供たちの参加意欲向上、スポンサーの注目増加、他国の対戦希望により、かつてのスリランカやカザフスタンとの対戦から現在のオーストラリア、南アフリカ、アイルランドとの「大舞台」での対戦が実現した。リーグワンのプロ化も促進されたが、今後は成功持続のためのシステム構築と質の高い選手の継続供給が不可欠だ。育成段階の成功への不適合も課題であり、JTSを通じた若手への高レベル経験提供の重要性を再強調した。


未来への展望と強固なコミットメント

2035年ワールドカップ日本開催の可能性について「全く分からない」としながらも、コーチングクリニックで子供たちに「2035年W杯出場の可能性」を語りかけることが大きな原動力になると信じている。大谷翔平や石川祐希を例に、日本の優れた身体能力を持つアスリートが様々な競技から求められる「選手の取り合い」状況において、ラグビーの人気向上と自国ワールドカップ開催により最高の選手がラグビーを選択することの重要性を指摘した。

67歳となる2027年ワールドカップ時の自身について「ハーフ」と表現し、体半分、血の半分は日本人だとしながら、2015年、2019年のように世界中がジャパンの試合を観戦したくなるチームの再創造への強固な決意を示した。ワールドカップ初戦前日まで、この目標達成可能なチーム構築に全力を尽くすと力強く宣言し、日本ラグビーの新たな黄金時代への道筋を明確に示した。


(取材:AtsuhikoNakai/SportsPressJP)




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