2025年6月21日、日本体育大学世田谷キャンパスの人工芝グラウンドで、日本ドワーフサッカー協会の定期練習会が行われた。練習会では、軟骨無形成症などの低身長当事者が安全かつ本格的にサッカーに取り組める場を提供することを目的としている。 その設立経緯、活動の意義、そして未来への展望について紹介したい。
ドワーフサッカーとは?
ドワーフサッカーは、主に軟骨無形成症など腕や脚が短い当事者が行うフットサル。このスポーツは、低身長当事者にとって自己実現の一つの形となり、幼少期からのスポーツ参加を通じて健康的な生活を促進すると考えられている。
日本ドワーフサッカー協会設立の背景と目的
2023年6月、糸岡栄博さんの元にアルゼンチンで開催される初の低身長者サッカーワールドカップ(COPA MUNDIAL FÚTBOL TALLA BAJA ARGENTINA 2023)への招待状が届いた。当時の日本では、医療現場において首、頭、背骨、腰への負担から、低身長当事者の運動はあまり推奨されていなかった。しかし、糸岡さんはこの招待を通じて、軟骨無形成症の成人当事者が世界でダイナミックにプレーしている姿を知り、衝撃を受けたという。
その後、同年開催された世田谷区のパラスポーツ普及イベントで日本体育大学・陸上競技部パラアスリートブロック監督の水野洋子さんと出会う。水野さんの門下生に軟骨無形成症の陸上選手が2名いることを知り、糸岡さんは水野さんに相談を持ちかけ、水野さんをコーチ、糸岡さんをコミュニケーションサポーターとして、計5名でアルゼンチンでの第1回FIFTBワールドカップに参加することになった。
アルゼンチンでは、南米を中心に15カ国から選手が集まった。日本はブラジル、ペルー、パラグアイと対戦したが全敗に終わり、南米など強豪との力の差を痛感する結果となった。選手育成や次世代への希望を提示する団体の必要性を強く感じたという。
こうした経緯を経て、糸岡さんと水野さん、そしてアルゼンチンでの激闘を目の当たりにした選手候補2名が中心となり、足掛け1年半の月日を経て、日本ドワーフサッカー協会が2024年12月に立ち上げられた。理事長にはパラスポーツ指導者の第一人者である水野洋子さんが、理事・事務局長には糸岡さんが就任。協会の直近の目標は、2026年にモロッコで開催が予定されている第2回ワールドカップにフルメンバーで参加することだ。また、日本障がい者サッカー連盟(JIFF)に属する団体となり、日本の障がい者サッカー全体の盛り上げに貢献することも目指している。
練習会の様子
日体大東京・世田谷キャンパスのグラウンドは人工芝で、クッション性が高く怪我をしにくい上、雨天でもプレーできる利点がある。練習は準備体操の後、2チームに分かれてゲーム形式で行われた。子どもたちはひたすらボールを追いかけ、蹴り、ドリブルでゴールに向かうことに集中した。練習を見守る保護者からは、子どもたちが遠慮なくハードにプレーできる環境の重要性が語られた。
低身長当事者の子どもたちが健常者と一緒にプレーすると、相手が手加減してしまうため、自分自身も遠慮してしまうことがある。そのため、同じ土俵でプレーできる場が大切だという。
一方で、怪我の心配も常にある。軟骨無形成症の特性上、首など危険な箇所への負担を避けるため、ヘディングはさせないなどのルールが決められている。また、体質的に熱がこもりやすい傾向があるため、暑さ対策として、体調を見ながら適宜ドリンク休憩を取ることも必要だという。
協会では、普段運動不足の方や、経験者との実力差を気にしてスポーツを躊躇している低身長の方の参加を呼びかけている。健常者の参加も可能だという。協会は、毎週土曜日12時より日本体育大学世田谷キャンパスで定期練習を行い、また第3土曜日12時からは体験会を開催していく予定である。
ドワーフサッカーの魅力
サッカーはチームプレーだけでなく、その場の状況に応じて頭を柔軟に使う戦術的な面白さがあり、またJFA(日本サッカー協会)が掲げる「誰も切り捨てない」というコンセプトのもと、障害の有無や年齢に関わらず誰でもできるスポーツであるという魅力も語られた。
今後の展望
日本ドワーフサッカー協会は、低身長当事者たちがスポーツを通じて輝ける機会を提供し、社会全体に多様な共生社会の実現を促す、重要な役割を担っていくことが期待されている。今後の普及活動としては、まずは日体大での活動を定着化させ、それを地域での活動立ち上げの足がかりにしたいと考えている。
※協会はドワーフサッカー南米選手権への出場を目指して、クラウドファンディングを実施中
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