替えはない状況。それでも勝たなければいけない

女子ブラインドサッカー日本代表、PK戦制し悲願の優勝 
~世界王者アルゼンチンを下し、国内初のIBSA主催大会制覇~ 


5月24日、「ダイセル ブラインドサッカーウィーク in うめきた」女子決勝が梅田スカイビル前で行われ、日本代表がアルゼンチン代表を0-0(PK1-0)で破り、大会優勝を果たした。日本のブラインドサッカー史上、男女を通じて初となる国内でのIBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)主催国際大会での優勝という歴史的快挙を成し遂げた。女子代表としてはIBSA主催の国際大会で3度目の優勝となる。

激戦の決勝戦 

決勝戦は世界王者アルゼンチンとの対戦となった。日本は若杉遥、竹内真子、西山乃彩、島谷花菜、藤田智陽の先発メンバーで臨んだ。両チーム一歩も譲らない攻防が続き、90分間を0-0で終了。勝負はPK戦にもつれ込んだ。PK戦では1番手の西山乃彩が冷静に決めると、ゴールキーパーの藤田智陽が相手のシュートを止め、日本が1-0で勝利を収めた。  


3位決定戦はオーストラリアが制す 

決勝戦に先立って行われた3位決定戦では、オーストラリアがイングランドを1-0で破り3位入賞を果たした。最終順位は優勝が日本、準優勝がアルゼンチン、3位がオーストラリア、4位がイングランドとなった。

 

個人賞はアルゼンチン勢が席巻 

個人賞では、大会MVPにアルゼンチンのグラシア・ソーサ・バレネチェ選手(背番号8)が選出された。得点王には大会通算5得点を挙げた同じくアルゼンチンのジョアナ・アギラル選手(背番号10)が輝いた。日本からは藤田智陽選手(背番号23)がベストゴールキーパー賞を受賞。決勝戦のPK戦でも活躍した藤田の好セーブが優勝の原動力となった。


世界一の下剋上を起こそうという気持ちで入った

勝利後の記者会見で山本夏幹監督は「この大会は本当に厳しい大会だった。僕らが準備してきたところの100%、120%出しても世界一のアルゼンチンにギリギリ勝てないかというところだと思って、本当に厳しい戦いをしていった。『世界一の下剋上を起こそう』という気持ちで我々は入ってきて、ワクワクするブラインドサッカーを見せよう、たくさんのお客さんにそういうサッカーを見せようということを本当に準備してやってきたところが、この決勝で出せたというのはチームの本当にみんなの選手のおかげだった」


主力3選手離脱の苦境を乗り越えて 

大会直前に菊島宙、鈴木里佳、田中一華の主力3選手が離脱することになったことについて、監督は率直にその困難さを認めた。「もちろんエースの菊島宙はしかりだが、最終ラインで体を張ってくれている鈴木里佳もそうだし、今回田中一華も離脱していった。本当に選手、フィールドに関しては4人だけ、キーパー2人で、替えはいないという状況。それである意味、それでも勝たなければいけないということは常に求められているところがあったので、なんとかここで結果が出せたというのは正直よくがんばったなと思う」

フィールドプレーヤー4人が交代なしで最後まで戦い抜いたことについて、「本当に1試合1試合にヒロインが出てきた試合だった。初戦は0-1だったが、みんなで守りきった。キーパーも含めて。オーストラリア戦もなかなか難しい中だったが、予選で最後イングランド戦で島谷も1点決めて、チームに勢いを付けてくれて、今日の試合も彼女が2点は取ってきて、その裏には一生懸命汗をかいた選手もいるし、みんなで守ろうというふうになってきた部分もある。1試合ずつ、本当に4人がよく頑張ってくれた」


組織力で世界王者に対抗 

0-0で前半を終えた時点で、監督がベンチから激しく選手を鼓舞する姿が印象的だった。この戦術について山本監督は「ゲームプラン通りだった」と明かした。「ゲームプランの中で0でOKという形。相手はやっぱり世界一だから、リスペクトしながら、8番のソウサをしっかりマークして、組織で戦うぞと。相手は個人で打開してくるけど、日本は組織力で、しっかり分厚い壁で戦えたかなと思う」


PK戦の戦略的采配 

勝負を決めたPK戦での蹴順について、山本監督は「私から」決めたと明言した。特に1番手に西山乃彩を起用した采配について詳しく説明した。「ガイドの彌冨コーチとも話をして誰が一番かなという話をしていた。もちろんこの練習をずっとしてきたので、乃彩に関してはもしかしたらサプライズだったかもしれない。昨日のPKも失敗もあったが、緊張の中で彼女はキレているので、みんな信頼して。今日のゲームもしっかり入れていたから本当に不安はなかった」


ロス・パラリンピックへの思い 

ブラインドサッカー女子はまだパラリンピックの正式種目になっていないが、山本監督は今大会について 「今日もたくさんお客さんが来ていただいて、我々もワクワクするブラインドサッカーを見せようというビジョンで活動してきた。今回いるメンバーでそれを達成できたなというふうに思っている。その中には視覚障害を持っているお子さんであるとか、または女性であるとか、そういった方たちが実際にリアルで生で見てもらえたというふうに思っている。配信の中でも見ていってもらったなと思っているので、そういった方たちに『私もブラインドサッカーやってみようかな』とか、少しでも思っていただけるなら、それがロスにつながるだろうし、一緒にまた日本代表を強くしていく仲間をここから増やしていきたいなと思う」と語った。


歴史的な優勝を機に、女子ブラインドサッカーのさらなる普及と発展への期待が高まっている。 


Photo KoheiMaruyama/SportsPressJP