P.UNITED:パラスポーツの未来を語る

2025年3月6日、東京都内で「P.UNITED SESSION 2025」が開催された。東京2020パラリンピックを機に発足した「P.UNITED(P.U)」は、パラスポーツ9団体が連携し、共生社会を目指すプロジェクトだ。3年目を迎え、「1が9集まることへの反響が予想以上に大きかった」と河野正利代表が振り返るように、マイナースポーツの課題解決と可能性を探る取り組みが注目を集めている。 


多様なアスリートが登壇 

第1部では、東京大会やパリ大会で活躍したアスリートが登場。馬術で92年ぶりのメダルを獲得した戸本一真選手(東京・パリ連続出場)、パリのパラ馬術で8位入賞の稲葉将選手、パリ大会の車いすフェンシング団体6位の加納慎太郎選手らが自身の経験を語った。また、カーリング元日本代表の市川美余さんや車いすカーリングで活躍中の花岡恵梨香さんも参加。スポーツジャーナリストの二宮清純氏がトークを盛り上げた。このセッションで、二宮氏は「共助は、共に支え合い、共に学び合い、そして共に助け合う横連携です」とP.Uの精神を称賛し、「三位一体ならぬ“九位一体”で頑張ってもらいたい」とエールを送った。  


マイナースポーツの課題と可能性

P.UNITEDは、車いすカーリングやパラ乗馬など9競技が集まり、資金不足や知名度向上といった共通課題に挑む9団体が「新しい社会を共に作る」場だ。代表の河野正利氏はこの目標を掲げ、3年目の今年、アスリート同士の対話を通じて課題解決を目指す「PUアスリートセッション」を企画。アスリートの一人、稲葉将は「この活動で世界が広がっていくような感じがします」と、交流がもたらす効果を語った。  


戸本選手は「マイナー競技こそ結果が注目を集める」と話し、メダル獲得後の問い合わせ増加を例に挙げた。市川さんは、カーリングが北京五輪でのメダル獲得を機に知名度を上げた経験を振り返り、「ルールを知ってもらうことが第一歩」と語った。 


メンタルとチーム力の重要性

緊張感ある大会での心境も話題に。加納選手は「メンタルコーチや仲間の支えが力に」と語り、戸本選手は「馬が平常心を保つ助けになった」と馬術ならではのエピソードを披露。車いすカーリングの花岡さんは「チームの雰囲気を良くすることで結果に繋がる」と、笑顔で試合を楽しむ姿勢を明かした。二宮氏は、1988年ソウル五輪での取材経験を引き合いに出し、メンタルコーチの導入が日本の競技力向上に寄与したと分析した。 


冬季パラリンピックへの挑戦

イベントは、翌日から始まる車いすカーリング世界選手権にも注目。ミラノ・コルティナ2026出場を目指すチーム中島(小川亜希選手・中島洋治選手)がビデオメッセージで意気込みを伝えた。出場条件は「現在世界9位の日本が8位以内に入れば出場権獲得」だという。市川さんは、「2人で考えて読んで作戦を立てていくところ」が見どころと語った。 


ピンチが原動力

第2部では、野口尚伸氏、栗栖良依氏、サヘル・ローズさんが登壇し、パラスポーツと芸術の融合や個人の原動力をテーマに議論を展開。障害者と健常者が共に生きる社会を目指すP.UNITEDのビジョンが軸となった。野口氏は「スポーツ以外の切り口で仲間を増やしたい」と、芸術との連携を提案。栗栖氏は東京2020パラリンピックでの経験を振り返り、「ピンチが原動力」と語った。予期せぬ困難が新たな道を開くと強調。一方、サヘルさんは戦争孤児としての過去を明かし、「弱さやトラウマが私を動かす」と述べ、痛みを知るからこその強さを訴えた。 

両者に共通するのは「声に出す」力だ。サヘルさんは「苦しい時こそ発信することで助けが得られる」といい、栗栖氏も「助けてと言うと人が集まる」と同意。ピンチを乗り越える鍵は他者との繋がりにあり、声が化学反応を生むと確信していた。 このセッションは、小さな力が社会を変える可能性を示した。パラスポーツの枠を超え、芸術や対話を通じて広がるP.UNITEDの取り組みは、ピンチをチャンスに変える姿勢と発信の大切さを教えてくれた。  


新たな可能性の探求

 東京パラ開会式に携わった栗栖氏は、P.UNITEDとの出会いを機に新たな可能性を見出す。アスリートキャンプで選手と交流し、「素の魅力」に惹かれた彼女は、サーカスとパラスポーツの融合を提案。長野での活動や空中芸体験を通じ、お互いの刺激を期待する。さらに、カヌーやカーリングなど自然と結びつく競技の独自性を活かし、サステナビリティやツーリズムと繋げる視点を示す。課題として選手の多忙さや情報発信の難しさを挙げるが、「私と一緒にパラスポーツの旅へ」と周りを巻き込む意欲を見せた。 


 野口氏は、2年間を振り返り、「1年目は体制固めに時間を費やし、2年目で認知拡大に注力した」という。イベント開催やSNS発信で手応えを感じつつ、「まだ足りない」と課題も認識。3年目では現活動を継続し、次の3年計画を固める意向だ。特に9団体のスケールメリットを活かし、人員・資金の効率化を目指す。ただし、独立した団体間の調整が課題と述べた。若者やアートとの連携も模索し、スポーツ以外の切り口で広がりを求める。将来は他団体とも協力し、パラスポーツの価値を高める意向だ。  


パラスポーツの魅力を広め、共生社会の実現に向けた一歩として、このセッションは大きな意義を持つだろう。  



取材/写真:斎藤寿子

編集:SportsPressJP